景-SCAPES

2017年12月9日(土)-2018年9月30日(日)
9:00-18:00 
毎月第3水曜休 2017年12月31日(日)-2018年1月3日(水)休

   尾﨑悌之助は、その生涯のなかで風景をテーマとした多くの作品を残しています。京都の大学に学んだ短い時期を除いて、終生にわたって鳥取で暮らした悌之助にとって、大山や鳥取砂丘、東郷池や久松山といった郷土の風景は常になじみ深い主題を提供しました。私たちは悌之助の絵の前に立つ時、水分を含んだ雪の質感や初夏のきらめく陽光といった山陰という風土ならではの新鮮な感覚を味わうことができます。その一方で悌之助は二度の外遊の成果として、外国に題材を求めた風景画も多く残しています。トレドの街並みやギリシャの僧院、そこからは見知らぬ光景や建築を前にした画家の興奮が伝わってくるようです。郷土と異国、それぞれに異なった風景は一人の画家にインスピレーションを与え、眼と絵筆を通してキャンヴァスの中に浮かび上がってきます。

   Landscape(風景)やSeascapes(海景)といった言葉からうかがえる通り、今回の展覧会のタイトルであるscapesとは日本語で言えば「景」、景色を意味します。「Seascapes」とは写真家杉本博司によって撮影された水平線で仕切られた世界各地の海景の連作タイトルでもあります。作品を発想するにあたって杉本は、何十万年経ったとしても人が見て変わることのない風景を記録に残そうとしたと述べています。この言葉は風景とはそれ自体が存在するのではなく、人が眼差しを向けることによって初めて成立することを示唆しています。別の言葉を用いるならば、scapesとは人と世界の関係を主題にしていると言えるでしょう。抽象的な表現を用いる中村一美や河合美和の作品が時に地形と関連したタイトルが与えられ、時に風景が連想されることは、彼らも絵画を通して自分と世界との関係を探っていることを暗示しているのではないでしょうか。

   今回の展示では悌之助の画業、そして新たにgridのコレクションに加わった山本一恵の大山を描いた作品や、宮塚春美の雲をイメージさせる作品などを通して、広い意味で風景と関わる作品を紹介します。さらにこの度は、悌之助の風景画と若手作家の作品を対比させることで、時代を越えて作家を魅了してやまない「風景」という主題の思いがけない広がりをお楽しみください。

尾﨑悌之助《トレド》1961年
油彩・キャンヴァス 

齋藤有希子《Ne t'inquiete pas》
2008年
アクリル・綿布  

尾﨑悌之助≪石佛2つ≫1974年
油彩・キャンヴァス 

尾﨑悌之助≪ロマネスクへの夢≫1977年
油彩・キャンヴァス 

堂本尚郎≪蓮池 無意識と意識の間≫
2006年
油彩・キャンヴァス

尾﨑悌之助≪大山≫1966年
油彩・キャンヴァス

伊谷賢蔵≪桜島≫1970年
油彩・キャンヴァス

山本一恵≪大山≫2017年
油彩・キャンヴァス

尾﨑悌之助≪雲と防砂垣≫1968年
油彩・キャンヴァス 

宮塚春美≪the clouds≫2016年
ミクストメディア・キャンヴァス